50代のうちに知っておきたい、60代の「働く」と年金

「稼ぐと年金が減る」と思っていませんか?

50代の方から、60歳以降の働き方についてご相談を受けると、よく聞く言葉があります。

「60歳を過ぎて稼ぎすぎると、年金が減ってしまうんですよね」

先輩たちからそう聞いて、60代は収入を抑えて働くものだと思っている方もいます。けれど、ここ数年で制度は大きく変わりました。そして、多くの方が勘違いしていることがあります。

60代の働き方を決める基準は、「年金が減るかどうか」ではありません。これからの暮らしに、どのくらいの生活費が必要かです。その理由を、順にお伝えします。

いちばん多い勘違い:「65万円」に入るのは、一部だけ

年金を受け取りながら厚生年金に入って働くと、給与と年金の合計が一定の額を超えた分、年金の一部が止まります。これを「在職老齢年金」といいます。

基準の額は、2022年4月に60〜64歳も65歳以上と同じになり(月28万円から47万円へ)、2026年4月からは月65万円になりました(2025年度は51万円)。

ここで勘違いが多いのが、何を合計するかです。

  • 合計するもの:給与(賞与を含めて月にならした額)と、老齢厚生年金(報酬比例部分)だけ
  • 合計しないもの:老齢基礎年金、加給年金、企業年金、iDeCo、個人年金など

「年金を全部足すと65万円を超えるから」と、働く時間を抑えている方がいますが、基礎年金や企業年金は計算に入りません。止まるのも厚生年金の部分だけで、基礎年金は、いくら稼いでも減りません。

65万円は2026年度の額で、賃金の動きに合わせて毎年度見直されます。

働くと、年金は増えていく

65歳から70歳になるまでの間、厚生年金に入って働くと、毎年10月分から年金額が増えます(在職定時改定)。パートや短時間の仕事でも、勤め先の規模や「106万円の壁」の要件がなくなっていき、週20時間以上働けば厚生年金に入れるようになります。

働けば、そのぶん年金は増える。ここまでは、よく知られている話です。

ただし、年金が増えれば安心とは限らない

あまり知られていないのは、年金が増えることで、70代・80代の負担が増える場合があることです。年金も所得なので、次のようなものに影響します。

  • 介護保険料:65歳以上は、所得に応じて保険料の段階が決まります。
  • 後期高齢者医療制度の保険料:75歳以上は、所得に応じた保険料がかかります。
  • 医療費の窓口負担:75歳以上は、所得によって1割・2割・3割に分かれます。
  • 介護サービスの自己負担:所得によって1割・2割・3割に分かれます。
  • 住民税の非課税:非課税から外れると、医療費や介護施設の食費・居住費などの軽減が受けられなくなることがあります。

年金を増やしたぶん、保険料や自己負担も増えて、手元に残るお金が思ったほど増えないこともあるのです。

では、働いて年金を増やすのと、収入を抑えるのと、どちらがよいのでしょうか。答えは、人によって違います。その分かれ目になるのが、必要な生活費です。

必要な生活費から逆算して、働き方を選ぶ

まず、これからの暮らしにどのくらいの生活費が必要かを考えます。ご夫婦の場合は、どちらかが介護の必要な状態になったり、重い病気になったりしたとき、あるいは一人になったときのことも見通しておきたいところです。介護や看病が必要になれば、働き続けること自体が難しくなる場合もあります。

年金と蓄えで必要な生活費をまかなえない見通しなら、厚生年金に入って働き、年金を増やすことが安心につながります。

反対に、必要な生活費をまかなえる見通しが立っているなら、働き方の選択肢は広がります。

  • 配偶者の健康保険の扶養に入れる範囲で働く
  • 週20時間未満に抑えて、社会保険に入らない働き方を選ぶ
  • フリーランスや自営業など、雇われない働き方を選ぶ

ただし、社会保険に入らない働き方では、将来の年金は増えず、病気やけがで休んだときの傷病手当金も受けられません。その点も含めて選ぶことが大切です。

ご相談でよく耳にするのは、「医療費や介護費用が、思った以上にかかった」という声です。そう考えると、医療や介護の費用を抑える工夫をする、うんと稼いで資産を増やしておく、という備え方もあります。

そして、一生懸命稼ぐだけが正解ではありません。ボランティアや地域の活動など、社会とつながることに時間を使う道もあります。60代の働き方は、収入だけでなく、健康や人とのつながりも含めて選ぶものです。

50代のうちに、自分の数字を確かめておく

先輩たちの「60代はこうだった」は、いまの制度では当てはまらないことがあります。だからこそ、50代のうちに、ご自身と家族の必要な生活費と、年金の見込み額を確かめておくことが大切です。

年金の見込み額の調べ方や、受け取る時期の選び方は、コラム「ねんきん定期便だけで安心?50代から年金を増やす3つの方法」で紹介しています。

「60歳から、どんなふうに働きたいか」という気持ちの面は、コラム「60歳からも、今の仕事を続けますか?」で書いています。お金の数字と、これからの気持ち。その両方がそろうと、自分に合う働き方が見えてきます。

※制度の内容は2026年11月時点の情報にもとづいています。在職老齢年金の基準額は年度ごとに改定されます。保険料や自己負担の基準は、お住まいの市区町村や加入している健康保険でご確認ください。

これからのライフデザインを軸に、お金とキャリアを一緒に考えてみませんか?

何から始めればいいか、まずは話してみたい方へ
「初回相談」の詳細はこちら

年金・キャリア・これからの収支を、ご自身の数字で確かめたい方へ
50代からのお金とキャリアの見通しを立てる「大人のライフプラン」の詳細はこちら

この記事を書いた人

相談業務に30年以上従事。CFP®(1級FP技能士)・国家資格キャリアコンサルタント。金融商品の販売を行わない立場で、資産形成・運用・年金といった「お金の設計」を土台に、働き方や生き方全体の調和を整える「ライフバランスメンター」として活動。公的就労支援や学び直しの現場経験も活かし、50代からの持続可能な人生設計に伴走しています。
代表プロフィールの詳細はこちら
選び直すための本棚はこちら

FPオフィス ミラボ 代表 京極佐和野のプロフィール写真(事務所内)