【就職氷河期世代①】悔しさを抱えてきた50代へ
就職氷河期世代の50代が、それぞれの道から人生後半を選び直すための全3回のシリーズです。1回目は、思うような職に就けず、悔しさを抱えてきた人へ。

大学サッカー部監督の本に、ピンときた理由
先日、筑波大学蹴球部の小井土正亮監督の著書『「教える」を手放す――人とチームの自律を引き出すコーチング』(2026年4月刊)を手に取りました。三笘薫選手をはじめ、多くのプロ選手や指導者を育て、2025年には大学サッカーの二冠にチームを導いた監督です。
本の中で監督は、勝つための絶対の法則はないが、成長し続けるための法則はある、と書いています。成長し続ける選手は、自分自身をよく観察し、環境が変わるたびに、そこで何が求められているのかを見極めて、自分を変えていける。そんな力を、指導者が「教える」のではなく、本人の中から引き出していくのだといいます。
読みながら、私はある世代の人たちの顔を思い浮かべていました。今、40代半ばから50代半ばを生きている、就職氷河期世代の人たちです。
面接20社、30社が普通だった時代
面接を20社、30社受けるのは当たり前。それでも内定が出ない。そんな時代がありました。
就職を勝ち取れた人と、勝ち取れなかった人。「勝ち組」「負け組」という言葉が、当たり前のように耳に入ってきました。正社員になれず、非正規雇用のまま働き続けてきた人も少なくありません。
私自身も、社会の流れの中で思うように生きてこられなかった悔しさを抱えて、ここまで歩いてきました。だから、この世代の話をするとき、どうしても他人事として語ることができません。
同じ時代を生きてきても、歩んできた道は人それぞれです。思うような職に就けず、悔しさを抱えてきた人。正社員の席をつかみ、それを守るために走り続けてきた人。大きな不満はないけれど、このままでいいのか分からない人。形は違っても、思い通りにならない時代の中で、自分なりに折り合いをつけてきたことに変わりはありません。このシリーズでは、この三つの道を順にたどっていきます。
失ったものだけを、数えていませんか
あの頃うまくいかなかったことを、今も自分のせいだと思っている人は多いのではないでしょうか。そして今も、決して甘くない現実と闘っている。だから、振り返る余裕もなく、自信をなくしたままになっている。
でも、本当に失ったものしかなかったのでしょうか。
断られても、次の面接へ向かい続けた粘り強さ。限られた収入で、暮らしを回してきた工夫。職場が変わるたびに、一から人間関係を築いてきた力。思い通りにならない中で、そのつど自分を組み替えてきた経験。
それは、きっと何かを得てきた証です。ただ、忙しさと悔しさの中で、それを「得たもの」として数える機会がなかっただけなのだと、私は思っています。
変わり続ける力は、もう持っている
小井土監督が本の中で示している「成長し続ける力」。環境に合わせて、自分を変えていく力です。就職氷河期世代は、それを若い頃から否応なく身につけてきました。
苦労したから強い、と言いたいわけではありません。賃金や年金、資産づくりの面で、この世代が構造的に不利だったのは事実です。その現実を認めたうえで、それでもなお言いたいのです。不利な条件の中で身につけてきた力は、これからの人生後半で、そのまま武器になる、と。
ミラボでは、今のお金の流れを自分で把握し、暮らしを自分の力で回せることを「自立」と呼んでいます。厳しい時代を生き抜いてきた人たちは、多くの場合、すでにこの自立の力を持っています。
これからは、自分の意思で選び直す番
ただ、これまでの変化の多くは、外から強いられたものでした。会社の都合、景気の波、社会の流れ。選び直してきたというより、選び直させられてきたのかもしれません。
人生の後半は、違います。いつまで働くか。年金はどれくらいか。どう増やし、どう備えるか。そして何より、これから何をしたいか。今度は、自分の意思で選び直すことができます。
ミラボでは、この「これから先に向かって、自分で選び、調整し続けられる力」を「自律」と呼んでいます。自立は今を整える力。自律は、これからを選び続ける力です。
そしてその始まりは、大きな決断ではありません。「できるかもしれない」「やってみたい」と思えること。それだけで、自分の内側から湧いてくるものは、ずいぶん違ってくるはずです。
夢とお金は、同時に動かす
ただし、気持ちだけでは前に進めません。お金は、後から考えたのでは間に合わないからです。
50代からの準備は、使える時間が限られています。非正規で働いてきた期間が長ければ、年金の見込みが思ったより少ないこともあります。だからこそ、夢を描くのと同じタイミングで、お金の現実にも向き合う必要があります。
- 家計を整える:毎月いくら入り、何に使い、どれだけ残っているか。まず今のお金の流れを見える形にする
- 年金を知る:自分はいくら受け取れそうか。いつから、どう受け取るか
- 制度を使う:NISAやiDeCoなど、使える制度を知り、自分に合う形で活用する
- 備えを確かめる:万一のとき、暮らしを守る保障は足りているか
- 働き方を決める:いつまで、どのように働いて稼ぐか
夢があるから、お金を整える意味が生まれる。お金が整うから、夢に現実味が出てくる。この二つは順番ではなく、同時進行です。厳しい時代にやりくりしてきた家計の力は、ここで必ず生きてきます。
関連コラム
夢とお金を並べるとき、何から確かめればいいかは、こちらのコラムで整理しています。無料でダウンロードできる「お金の準備シート」もご用意しています。
50代のお金の準備|最初の一歩は、悩みのタイプで決まる
おわりに:そのエネルギーを、自分の夢と希望のために
悔しかったこと、報われなかったこと。心の中で何度「くそ!」と思ったでしょうか。あるいは、そう思う余裕さえなかったかもしれません。
そのエネルギーは、消えてなくなったわけではありません。ずっと、あなたの中に貯まっています。だからこそ、これからはそれを、誰かに負けないためではなく、自分の夢や希望のために使ってほしい。私はそう願っています。
最後に、ひとつだけ問いを置いておきます。
「この先、やってみたいことを一つだけ挙げるとしたら、何ですか」
紙に一行、書いてみてください。そして、その隣にもう一行。「それには、いくら必要で、いつまでに準備すればいいだろう」と。夢とお金を並べて書いた瞬間から、選び直しは始まります。
冒頭の監督も、部員に「頑張ります」という決意ではなく、「何を、いつ、どうやって」を書き出させているそうです。三笘選手が際立っていたのも、特別な才能より、考えたことを実際の行動に落とし込む力だったといいます。
夢も、お金の準備も同じです。「いつか旅行に行きたい」ではなく、「何を、いつまでに、どうやって」。書いて、言葉にして、動いてみる。その積み重ねが、人生後半を自分の手に取り戻すことにつながっていきます。
ミラボの「リスタートプログラム」は、これまでの人生を棚卸しし、失ったものだけでなく得てきたものも確かめながら、これからの選択を一緒に整えていく伴走プログラムです。
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参考:小井土正亮『「教える」を手放す――人とチームの自律を引き出すコーチング』(2026年4月刊)
シリーズ「就職氷河期世代の選び直し」
- 悔しさを抱えてきた50代へ(この記事)
- 「勝ち組」と言われた50代へ
- 「このままでいいのか」と思う50代へ
この記事を書いた人
京極 佐和野(きょうごく さわの)
ライフバランスメンター/FPオフィス ミラボ(福岡・筑紫野)
相談業務に30年以上従事。CFP®(1級FP技能士)・国家資格キャリアコンサルタント。金融商品の販売を行わない立場で、資産形成・運用・年金といった「お金の設計」を土台に、働き方や生き方全体の調和を整える「ライフバランスメンター」として活動。公的就労支援や学び直しの現場経験も活かし、50代からの持続可能な人生設計に伴走しています。
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